蓮の国(LotusLand)

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感想「標的は11人」(ジョージ・ジョナス、新潮文庫)

 

標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)

標的(ターゲット)は11人―モサド暗殺チームの記録 (新潮文庫)

 

 

 1972年に起きたミュンヘンオリンピック事件と、その事件を起こしたテロリスト「黒い9月」たちをモサドイスラエル諜報特務庁) が1人1人暗殺していく、という報復作戦の顛末を描く。

 

 2005年にスピルバーグ監督の「ミュンヘン」という映画が公開されたが、この本はこの映画の原作本。この映画によって事件を初めて知った人たちも多かったのではないか。


映画 「ミュンヘン」 (05 米/日本公開0602) 予告編 <2m40s>

 

 1972年というと世界はまだまだ血なまぐさかった。ちなみにこの年の2月には「あさま山荘事件」が起き、5月にはテルアビブで日本赤軍による銃乱射事件…などなど、左翼革命を信じた人達による事件も多かった。当時、東欧には共産主義の国が多く、まだ「左翼革命」には現実味があったのだろう。

 

 余談はさておき、この「ミュンヘンオリンピック事件」についてだが、未だに根深いイスラエルパレスチナの対立による事件だ。ミュンヘンオリンピックの選手村に、パレスチナのテロリスト「黒い9月」が侵入、イスラエルの宿舎を襲撃し選手たちを人質に取った。最終的に警察の作戦が失敗、人質となった選手たちは全員死亡したという、悲惨な事件である。

 事件に対するイスラエルの動きは早かった。首相のゴルダ・メイアは、報復として空爆を行うとともに、モサドによる「黒い9月」のメンバーの暗殺を指示。イスラエルはこの目的を「次のテロを防ぐため」としており、「神の怒り作戦」とか、「バヨネット作戦」などと言われる。

 

 主人公は、この暗殺チームのリーダーに選ばれた男、アヴナー。彼のもとには様々なエキスパートが集い、次々に「黒い9月」のメンバーを暗殺していく。この作品は、アヴナーの証言に基づいて書かれているが、イスラエルはこの「アヴナー」の存在を否定しているという。理由は本作を最後まで読めば分かるだろう。

 暗殺の計画は銃殺に始まり、ベッドや車に爆弾を仕掛けるなど多種多彩だ。爆弾の設定にミスがあって思い通りにならない、というところも非常に真実味があって面白い。

 

 そう、全て思い通りにはいかない。任務を遂行していくうち、仲間も1人、また1人といなくなっていく。任務の通り人を殺していくことへの虚しさ、絶望感。主人公はこの絶望から逃れようとするが、モサドはそれを許そうとはしなかった。なんとも切ない読了感が、しびれる。