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蓮の国(LotusLand)

近衛秀一の読書感想文が中心のブログ。

感想「1973年のピンボール」(村上春樹)

読書(小説)

 

 

1973年のピンボール (講談社文庫)

1973年のピンボール (講談社文庫)

 

「ねえ、誰かが言ったよ。ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲め、ってね」(文庫版144ページ)  

 

 「風の歌を聴け」から続くシリーズ第2作目です。

 

 しかし、前にも書いたとおり、僕は「ノルウェイの森」を初めて読んでずっこけて、その後「羊をめぐる冒険」を読んでしまい「鼠って誰?」と思いながら「風の歌を聴け」「ダンス・ダンス・ダンス」を読むという、村上春樹ファンからすれば「お前順番通りに読めよ!」とツッコまれるような読み方をしているわけですが、まあ、本来は順番通り読むべきものでしょうが、そんなにダメージはありません。

 

 「鼠」(主人公の友人)は、「風の歌を聴け」ではバーで主人公とビールを酌み交わす仲でしたが、この「1973年のピンボール」では、一転して主人公と会うこと無く、同じバーでビールを飲み、ポテトを食べ続けます。主人公であるところの「僕」は、翻訳のちょっとした事務所をオープンさせ、バーボンを飲みながら仕事をする傍ら、どこからともなく現れた「双子」と暮らす、という不思議な日々を送っています。この小説では、「僕」と「鼠」の生活が交互に語られます。

 

 この「風の歌を聴け」「1973年のピンボール」「羊をめぐる冒険」「ダンス・ダンス・ダンス」での村上春樹の文体は、なんとも透明性があって硬質で、とても良い感じ。ハードボイルド小説を読んでいるよう。でも、これはハードボイルドというよりは…どういえばいいのでしょうね。

 

 例えば、「僕」の部屋にいつの間にかやってくる「双子」。そっくりで見分けがつかず、名前を聞いても2人は「名乗るほどのものじゃない」などと言ってしまいます。まあ、普通なら警察に通報するところですけど(笑)、「僕」は突然の双子の来訪を許してしまうんですね。心象風景なのかと思いましたが、そのちょっと後で配電盤を工事に作業員がやってくる辺りで、この作業員は「双子」を目視してるんですよ。謎…。

 この辺で意味を求めちゃ最後の最後で肩透かしを食らうので、そのまま読み進めることにしますが。

 その後、「鼠」は古巣のバーを離れることを決心するのですが、そのバーのマスター「ジェイ」との会話がなんともいえない。

 

「なあ、ジェイ、だめだよ。みんながそんな風に問わず語らずに理解し合ったって何処にもいけやしないんだ。こんなこと言いたくないんだがね……、俺にはどうも余りに長くそういった世界に留まりすぎた気がするんだ」(文庫版172ページ)

 

 しみじみと読んでいて寂しくなる、そんな小説でした。