読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

蓮の国(LotusLand)

近衛秀一の読書感想文が中心のブログ。

感想 「高い城の男」(フィリップ・K・ディック)

 

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

高い城の男 (ハヤカワ文庫 SF 568)

 

 

 実はSFって苦手でほとんど読んだことがないのだが、先日Youtubeで見た映像で衝動的に買ってしまった。あと表紙のデザインも好き。


The Man in the High Castle Official Comic-Con Trailer ...

 

 SFマニアの友人にこの本を買ったことを告げると、「初めて買うにしては、SFっぽくないSF買いましたねえ」と言われた。まあ、あくまでもこれは友人の感想で、この「高い城の男」がSFかどうか、という議論は私は良く分からないので放置しておく。

 

 物語は、第二次大戦でナチス・ドイツとイタリア、そして日本からなる「枢軸国」が、アメリカ・イギリスを主体とした「連合国」に勝利していたら…という「歴史のif」から始まる。舞台はアメリカ。とはいえ、ナチス・ドイツと日本(大日本帝国)に支配され、アメリカ人は日本人に媚びへつらわなければいけない。そんな「もしも」の世界での群像劇。「主人公」は特におらず、複数の物語が展開されるので最初は面食らった。

 

 面白かったところ。スウェーデン人のバイネスとドイツ人芸術家のアレックス・ロッツェの会話。

 

「残念ですが、現代美術には関心がなくて」バイネスは答えた。「戦前のキュビスムや抽象派は好きですがね。なにかを意味している絵が好きなんです。たんに理想像を表現したものじゃなしに」それだけいって、そっぽを向いた。

「しかし、それが芸術家の任務なんです」とロッツェ。「人間の精神性を高め、官能を克服することが。あなたのいう抽象美術は、昔の金権政治と社会の腐敗からきた精神的堕落、精神的混乱の時代の産物です。ユダヤ系と資本主義者の百万長者、無国籍的なグループが、そうしたデカダン芸術を支持したんです。そんな時代は終わりました。芸術は前進しなくちゃなりませんー一箇所にとどまってはおれないんです」

 

 ナチス・ドイツは抽象派やキュビスムといった幻想的な絵画を「退廃芸術」として弾圧した。ヒトラーは画家フランツ・マルクが好んで描いた青い馬を槍玉に挙げ、「青い馬なんかこの世にいるわけねえだろ」と言ったという。この画家の「青い馬の塔」はナチスにより1937年、ベルリンのナショナル・ギャラリーから没収され、行方不明のままだ。

 

f:id:konoesyu:20150805145338j:plain

フランツ・マルク「青い馬の塔」

 

 この「高い城の男」ではこの考えがそのまま浸透してしまっているわけだ。この時代の芸術はどうなっていたのだろう、などと読みながらつらつら考えた。