蓮の国(LotusLand)

近衛秀一の読書感想文が中心のブログ。

NEW23で「江戸しぐさ」特集。命脈は絶たれたか?

 同じ学会仲間(って変な言葉だが)の原田さんが出演されるというので、TBS系列の「NEWS23」を見る。筑紫哲也の冠がつかなくなったな、と思っていたらもう亡くなっていたのか。知らなかった。

 特集はまず江戸しぐさの紹介から始まり、「NPO法人江戸しぐさ」が主張しているような説を披露した後で、「江戸しぐさ」が教科書に使用されていることなどが紹介される。

 冒頭、スタッフが街頭でフリップを見せて「知っていますか?」とやるシーン。よくある光景だ。多くの人が「ああ、知ってます」「全部わかる」と言っていて、ちょっと驚いた。

 

 しかし、今「江戸しぐさ」に疑問が相次いでいる…とした上で「時泥棒」を取り上げる。まあ、これが一番ツッコミを入れやすいからテレビで紹介されるのは当然だろう。越川氏の著書には「大名時計は一分刻みの正確さ」などというトンデモないことが書かれているのだから。

 「あるわけない」で終わらず、ちゃんと江戸時代の時計の精度を調べ、専門家に話を聴く辺りはスタッフちゃんとやってるなー、という感じであった。

 

 偽史研究家という肩書で登場した原田さんは「傘かしげ」を取り上げ、江戸では傘が普及したのは天保年間以降と思われ、それ以前は笠や蓑、合羽といった雨具が主流であった、と検証。

 

 NPO法人江戸しぐさでは、これらの「江戸しぐさ」は口伝で伝えられ、歴史的資料は一切残っていないことを認めている。そして、明治維新に官軍によって江戸っ子が虐殺され、江戸しぐさは歴史の闇に葬られた(!)。という、「んなアホな」と誰もが考えるような部分も紹介。

 

 法政大学の田中優子氏はこの「江戸っ子大虐殺」について、「想像ですよね。つまり空想と言えばいいのか」と散々なコメント。

 

 ところで、この田中優子氏といえばかつては江戸しぐさを「支持」していると言われてもしょうがない公演をしていた方である。

www.reitaku-u.ac.jp

 

 上記サイトによれば、田中氏は質疑応答の中で

「”江戸しぐさ”といわれる”傘かしげ”や”こぶし腰浮かせ”などは、相手を思いやる気持ちがないとできない動作です。重要な点は、それらが社会へ出る中で、人間関係の距離感を自然につくりだすという、独自の日本文化であることです」

 

 と述べたという。いつの間にか「江戸しぐさ」の懐疑へ転向したわけだ。Twitterなどではこれに対し批判する人もいるようだが、私(近衛)はそこまで思っていない。ビリーバーが懐疑方向へ転向したという例は、いくつ上げてもキリがないほどあるだろうし、ある説を信じていた研究者が過ちに気づいて論文を撤回、なんていうのもある。これはむしろ、「江戸しぐさ」にツッコミを入れる側とすれば喜ばしいことだと思うんだけどなあ。

 私の想像だが、田中氏は江戸しぐさの本をほとんど読んでなかったんではないか。まともな研究者なら、いくらなんでも「江戸っ子大虐殺」でおかしいと気づくはず(と思う)。

 話が脱線したが、「NPO法人江戸しぐさ」は、番組への質問には回答せずに

 

「伝承された内容を『伝承』として正しく伝えることで、思いやりの心の種に水やりをする事を目指している」
「講演や講座などでは、伝承であると必ず伝えている」

 

 と答えているそうだ。教科書の採用については、

 

「出版社などの関係者から一切問い合わせなどなく驚いている」

 

 のだそうである。しかしその出版社もずいぶんと杜撰な仕事をするものだ。それに気づかない(気づいていたけど放置したのかな)NPO法人も杜撰だけど。

 

 そして「江戸しぐさ」を道徳の教材に採用した文科省も、

 

「歴史的事実として教えるものではなく、礼儀やマナーを考えるきっかけになればと作成した」

 

 と言い訳めいたコメントをした挙句、

 

「歴史的には検証していない」

 

 のだそうだ。びっくりである。教科書ってこんなに杜撰に作られてたのね。

 

 以前「江戸しぐさの正体」のレビューでも似たようなことを書いたかもしれないが、「江戸しぐさ」は1つ1つ見ていくと、芝三光氏の「ぼくのかんがえた江戸時代」としか思えなかった。まったくの「偽史」が教科書として流布されたという、びっくりするようなスキャンダルであると個人的には思っている。

 今後、このテレビ放映をきっかけにして、江戸しぐさを検証する視点が増えてほしいと願っている。