蓮の国(LotusLand)

近衛秀一の読書感想文が中心のブログ。

書評『無能の人』

無能の人・日の戯れ (新潮文庫)無能の人・日の戯れ (新潮文庫) (1998/02) つげ 義春 商品詳細を見る
無能の人・日の戯れ』(つげ義春新潮文庫)読了。  私小説というジャンルがあるけれど、これは「私漫画」に近い。  いくつかの独立した短篇集と、「無能の人」という連作が収録されている。「日の戯れ」「退屈な部屋」では、主人公は売れない漫画を描いており、現実から逃避するべく偽名でアパートを借りたり、昼間から鉱泉宿(この響きがつげ義春だよ)に行ったりする。こんな自堕落な主人公だが、ショートカットの「妻」の可愛さからか、少しほのぼのとして人間臭いエピソードが続く。 『無能の人』は主人公助川の暗い物語だ。もともと漫画家だった彼は次第に行き詰まりを感じ、中古カメラ屋や古物商をやるもののいずれも失敗、多摩川に横たわって『石屋』となる。喘息の子どもはビラ配りをし、妻からは「虫けら」と罵られる毎日。なんともむなしく、心のなかに秋の風が吹くような、そんな気分にさせられる。  しかし、なぜか、私にはこの助川が羨ましく思えてしまう。世の中のいろいろなものに囚われつつ、ひょい、と避けて生きているように感じてしまうのだ。  作者のつげ義春は放浪癖・蒸発癖のある人で、旅先で小さなあばら屋を見つけると「ここに住めないだろうか」と思ってしまう、という性格だったそうだ。  仕事をしていると、不意にこの場から逃げ出したくなる。家にいても職場にいても、いや、どこにいても、ここから居なくなって、どこか遠いところへ行きたくなってしまう。あー気持ちがよく分かるなあ、などと勝手に思っていたのだが、これってやっぱり疲れてるんだよな。。